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  原始地球環境       

 

 比較惑星学

 地球・生命

原始地球環境

・KP     

スノーボール

・地球大気進化

 観測・探査

 実験装置

生命前駆物質供給過程

生命のもととなった最初の有機物はどこからもたらされたのか?

    それは惑星科学上最大の関心事の一つです。当研究室では地球がその進化の過程でたびたび経験してきた「天体衝突」に焦点をあて、この問題に取り組んでいます。天体衝突はK/P大量絶滅[K/Pにリンク]に代表されるように生命を滅ぼす印象を持たれがちですが、実は生命起源にも大きな役割を果たし得ます。以下では、従来の生命起源仮説を紹介しながら、当研究室の研究内容についてご紹介します。

    1953年, S. L. Millerは指導教員であったUreyの提唱した模擬原始地球大気中での放電実験を行い、生命前駆物質(シアン化水素(HCN)、アルデヒドなど)が生成することを見出しました(ユーリー、ミラーの実験)。その当時、原始地球大気は木星、土星大気と同様にメタン(CH4)やアンモニア(NH3)に富んだ還元的な組成であると考えられていました。しかし、1980年代に急速に発展した惑星形成理論によって、太陽系形成時の描像が進化し、原始地球大気は 二酸化炭素(CO2), 窒素(N2), 水蒸気(H2O) といったより酸化的大気であったと考えられるようになりました。このような大気中では放電などでエネルギーを加えても、生命前駆物質は効率よく生成しません。
    このような流れを受けて、次に主流になったのは宇宙からの生命前駆物質持ち込みでした。地球上で発見された炭素質隕石からは実際にアミノ酸などが検出されていますし、彗星などにも大量の有機物が含まれています。しかし、この過程では有機物を分解させずにどのように原始地球に持ち込むかが大きな問題になります。地球の厚い大気を通ってくるとスペースシャトルの地球突入時のように非常に強い加熱を受けてしまいます。隕石がある程度の大きさを持っていれば、表面が融けるだけですみますが、今度は地上での衝突時に分解されてしまう可能性があります。地球外有機物を無事に持ち込むには隕石の大きさや入射角度など絶妙な条件が揃う必要があり、論争の的になっています。
    そこで当研究室ではある程度の大きさを持った(半径数100 m以上)の天体衝突に注目しています。小天体は、秒速10 km以上で地球へ衝突してきます(地球の脱出速度は11.2 km/s)。このような超高速度の衝突では衝突天体及び地球地殻の一部が蒸発し高温高圧の衝突蒸気雲が生成されます。衝突蒸気雲の内部では、活発な化学反応が進行し、隕石に含まれる炭素や大気中の窒素を材料に生命前駆物質が生成される可能があります。先にご説明した通り、二酸化炭素(CO2), 窒素(N2), 水蒸気(H2O)からなる大気に覆われた地球上では、生命前駆物質は効率よく生成されません。その中で天体衝突は局所的かつ過渡的ではありますが、効率よく生命前駆物質を供給していた可能性があります。生命が誕生した頃の地球に、頻繁に天体衝突が起きていたことは、月面のクレーターの分析からほぼ確実と考えられています。
    このように天体衝突により生成された衝突蒸気雲は生命前駆物質合成の場として有力であるのですが、天体衝突に伴う衝突蒸発過程[天体衝突にリンク]や衝突蒸気雲の内部で進行する化学反応はよくわかっていないのが現状です。そこで当研究室では、高速度衝突実験 & レーザー照射による模擬実験を軸に熱力学o化学反応速度論なども合わせて、天体衝突による生命前駆物質合成効率を推定することを目指し、研究を行っています。

(文責: 黒澤 耕介)

NASA エイムスリサーチセンターでの衝突実験の様子
衝突閃光の分光測定を行い、衝突蒸気雲内の温度及び圧力の推定を行います。
レーザー照射による模擬実験の様子。
高速度衝突実験は化学分析には不向きであるため(火薬を用いるため)、化学的にクリーンなレーザー照射によって、衝突蒸発を模擬し、生成した気体及び凝縮物の化学分析を行います。[GC-MS, FT-IRにリンク

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