研究トピックス:惑星化学

 ・タイタンの起源と進化 

土星の衛星タイタンは、土星最大の衛星であり、その直径は火星の2/3にも匹敵する惑星サイズの天体です。タイタンが研究者にとどまらず広く注目される理由は、地球によく似た表層環境を持っているからです。タイタンは厚い窒素大気を持ち、地表にはメタンやエタンの湖や雲、雨が降っています。このような気象現象や物質循環が現在も活発に起きているのは、太陽系で地球以外ではタイタンだけです。さらに氷の砂丘やアンモニアでできた低温火山も存在し、大気中では生命に関連した高分子有機物が合成されていることも明らかになってきました。タイタンはいかに誕生し、進化してきたのか? 生命の起源に迫るカギは? 室内実験と数値モデルを組み合わせて謎に迫る研究をしています。

 ・氷衛星の起源と内部海の化学 

土星の衛星エンセラダス、木星の衛星エウロパ、ガニメデ、海王星の衛星トリトン。これらの氷衛星を外から見ると凍り付いた極寒の天体に見えます。しかし、その内部にはに液体の水からなる暖かく広大な海が存在していると考えられています。このような内部海は、木星や土星との潮汐加熱により、長期間安定的に維持されており、海底火山のような火成活動も存在する可能性も指摘されています。近年、エンセラダスの内部海が地表面の割れ目からジェットとして噴出していることが明らかになり、近い将来には内部海を直接調べることができるようになるかもしれません。このような内部海の化学組成は? 地球のような海底熱水噴出孔は本当にあるのだろうか? 生命活動に必要なエネルギーは十分あるのか? これら氷衛星系の起源は? 室内実験やモデリングによりこれらの疑問に迫っています。

 ・火星の環境進化


現在の火星は、寒冷乾燥であり液体の水が安定して存在することはできません。しかし、形成から数億年間は温暖湿潤な現在の地球のような環境が維持されていたことが、近年の火星探査による堆積物層の化学・鉱物分析などから明らかになってきました。当時の火星を温暖に保っていたメカニズムは何か? どうして火星の環境は変わってしまったのか? 過去の火星には生命が存在していたのか、その痕跡を探すためにはどこを調査したらよいのか? これらの疑問に答えるための室内実験に加え、地球上の比較対象となる場所の地質調査を行っています。特に、インドのロナクレーターは、地球上で唯一現在でも活発に地下水がクレーター内に供給されて湖ができている衝突クレーターであり、太古の火星環境を類推する上で極めて重要なアナログです。

 ・触媒化学反応と原始太陽系星雲、初期惑星大気

大気や海洋、生命の起源に化学的に迫るためには、それを構成する揮発性元素が、太陽系の初期にどのような分子として存在し、惑星形成時にどのような変成を受けるのか知る必要があります。特に、原始太陽系円盤あるいは隕石衝突時に形成する衝突蒸気雲において、気体分子を金属微粒子との間で進行していたであろう触媒反応が、円盤全体や惑星材料物質の化学組成、初期惑星大気組成に影響を与えた可能性に着目し、化学実験を行ってきました。このような惑星材料物質に関する化学的制約は、太陽系外の惑星の材料物質を探る上でも極めて重要な知見となります。




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