惑星探査機・望遠鏡観測を用いて
地球型惑星大気の成り立ちを理解する

「生命が存在可能な惑星環境はどのように育まれるのか?」私たちの研究の目的は、そのような疑問に答えることです。

生命あふれる惑星で一番身近な地球は、そういった観点での研究が盛んに行われてきました。 一方で、近年急速な発展を遂げる天文学分野では、私たちの太陽系の外に「第二の地球を探す」観測研究が盛んになされていて、候補が続々と見つかっています。 これからの惑星科学・天文学分野では、こうした多くの地球型惑星を包括的に網羅し、惑星大気システムを体系的に理解することが求められています。 ただし、系外惑星の大気は観測がまだ難しく、ほとんど情報を得られていません。 そこで、我々の太陽系に存在する地球型惑星である、金星と火星を詳しく調べ、地球との比較からその惑星環境や大気進化を理解することが大切になります。

金星も火星も、かつては現在の地球大気のように温暖湿潤な気候で、大量の液体の水が地表面に存在した時代が可能性があると考えられています。 しかし、現在の金星は分厚い二酸化炭素大気に覆われた灼熱乾燥気候であり、一方で火星は薄い二酸化炭素大気に覆われた寒冷乾燥気候です。 かつて存在した水はどこへ失われたのか?生命存在可能な惑星大気環境はどのように維持されうるのか?このような疑問に答えるためには、地球型惑星大気の物理・化学を体系的に理解する必要があります。

私たちは、惑星探査機や大型望遠鏡を用いて大気の重要な物理量を観測し、金星・火星大気の理解を進めています。以下に、現在進行中の主要な研究項目を観測手法別に示します。

ExoMars Trace Gas Orbiterによる
火星大気組成の高度分布導出、同位体比計測、
及び、微量大気成分の探索

ExoMars Trace Gas Orbiter (TGO)は、2018年4月に科学運用を始めた欧州の火星探査衛星で、その名の通り、火星大気の組成を詳細に調べる事が主要な目的の一つです。TGOの大きな特徴は、最適化された軌道から行う、大気の太陽掩蔽観測です。私たちは、ベルギー宇宙科学研究所が開発した赤外線分光計NOMADによる太陽掩蔽観測データの解析を中核として行ってきました。NOMAD は、従来の観測装置より10倍以上高い波長分解能を達成し、太陽という強い光源を用いて掩蔽観測を行うことで、大気組成の鉛直高度分布・同位体比の高感度計測・微量大気成分の探索が可能です。大気組成の鉛直高度分布は、物理・化学プロセスを経て生じる大気の物質循環を理解する上で鍵となる情報です。特に、水蒸気がどのように大気上層へ運ばれ、宇宙空間へ消失する過程を理解することは、火星における水環境の歴史を知るために重要です。これまでの私たちのデータ解析から、火星で生じる砂嵐が水蒸気の鉛直輸送に大きな影響を与えていることを明らかになり、現在、データ解析をさらに進めているところです。また、大気進化の理解を深めるために、様々な進化プロセスの指標となる水蒸気や他の大気分子の同位体比計測にも力を入れています。加えて、例えば私たちのデータ解析から発見された大気分子・塩化水素の生成消滅過程の解明など、大気化学や地学・生命活動の指標となる微量大気成分の探索も精力的に行っています。

Credit: ESA/ATG medialab

地上大型望遠鏡による火星大気組成・同位体比の全球空間分布、
及びサブミリ波望遠鏡による火星砂嵐観測

ハワイ島・マウナケアにあるNASA・IRTF望遠鏡や国立天文台・Subaru望遠鏡などの大型地上望遠鏡を用いて、火星大気の観測を進めています。これらの大型望遠鏡を用いると、惑星探査機には搭載不可能である大型で高性能な装置で観測を行うことができます。非常に高い波長分解能で幅広い波長域を一度に分光観測し、多数の火星大気分子吸収線から、大気組成や同位体比の全球空間分布の取得が可能です。火星探査機観測から得られる鉛直高度分布と合わせることで、三次元時空間変動を調べることができます。私たちは現在、NASA・GSFCのグループと協力して、IRTF望遠鏡を用いた火星大気の長期観測キャンペーンを行っています。

Credit: NASA/ Ernie Mastroianni

また、チリ・アタカマにあるサブミリ波帯のALMA望遠鏡を用いると、砂嵐時にダストを通して砂嵐内部の大気を観測することが可能です。2018年に発生した火星全球砂嵐時に観測したALMAデータの解析から、砂嵐時の大気組成や循環変動の理解を進めています。

Credit: ESO/C. Malin (christophmalin.com)

日本の将来火星探査衛星計画MMXによる
火星大気の高解像度気象観測

火星探査衛星探査計画MMXは、2024年に打ち上げ予定の日本の火星圏探査衛星で、火星の衛星(月)の1つであるフォボスにタッチダウンし、サンプルを地球へ持ち帰ってくる野心的なミッションであり、火星観測も随時行う予定です。MMXが目指すフォボスは火星赤道を周回しているため、フォボス軌道から火星をみると、同じ地域の時々刻々変動を追うことが可能です。MMXでは、高解像度のカメラと分光撮像装置を用いて、水やダストを観測することで、大気の薄い火星で卓越するであろう1日以内の短期間変動を捉えます。私たちは、2025年の運用開始に向けて火星気象観測の計画立案をリードし、データ解析の準備を進めるとともに、既存の欧米火星探査機データを用いた予備研究を進めています。

Credit:     JAXA

地上大型望遠鏡による金星観測と
将来欧州金星探査機Envisionへの貢献

金星も、初期には豊富な水が存在した惑星環境でしたが、火星のように大気が宇宙空間へ失われたとされています。1980年代の行われた水蒸気の同位体比から、金星の値が地球の約150倍であることが示され、宇宙への大気流出が示唆されました。しかしそれ以後、水蒸気同位体比の詳細な観測は報告されていません。私たちは、NASA・IRTF望遠鏡に搭載された新しい赤外高分散分光計iSHELLを用いて、金星地表面付近の水蒸気同位体比の空間分布を精度良く計測し、火山脱ガスなど表層プロセスや大気化学による水蒸気同位体比の時空間変動の詳細な理解を目指しています。同内容は、私たちが参画する2030年代の欧州金星探査機Envisionの主要な科学目標の1つでもあります。

Credit: NASA / JAXA / ISAS / DARTS / Damia Bouic / VR2Planets

惑星科学はチームで進める機会が多く、国際協力で進めることが魅力の一つです。立ち上がったばかりの新しい研究室ですが、自主性とやる気溢れる皆さんの参加を歓迎します。

“Understanding of the evolution
and climate of the atmosphere of the terrestrial planets
by ground-based and spacecraft-borne measurements”

How does a habitable planetary climate make and sustain? – The ultimate goal of our research is to answer such a question.

Our planet, the Earth, has been investigated from this point of view for many decades. On the other hand, in this century, Earth-like planets have been discovered outside of our solar system. In the next decades, it will be required to study atmosphere of terrestrial planets as a common system. However, it is still challenging to directly observe atmosphere of the Earth-like exo-planets. Thus, it is important to investigate the atmosphere of Mars and Venus that are “Earth-like planets” in our solar system, and to understand their environment and evolution.

It has been proposed hat Mars (and probably Venus) once had a large amount of liquid water on the surface like the current Earth. However, the current Venus has extremely warm climate with thick CO2 atmosphere, and Mars is a cold and dry planet. Where/how has a large amount of water gone? To answer such a question is one of the major science goals of recent Mars/Venus missions.

I have studied the atmosphere of Mars with European Mars missions such as Mars Express and ExoMars Trace Gas Orbiter, and ground-based telescope observations such as Subaru, SOFIA, ALMA, and IRTF. To improve our observational knowledge of water evolution on Mars and Venus, I analyze new data from the Mars orbiters with NASA/ESA colleagues and perform new observations with ground-based telescopes.

One of the interesting aspects of the planetary science is that there are a lot opportunities to work with many people as an international team. Please contact us if you would like to join.

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