スマートGS報告会

第4回TIAかけはし成果報告会

本研究では、人間の指示を受けて衛星が観測するというこれまでの発想を転換する。地上局や衛星管理システムの衛星運用設計に人工知能(Artificial Intelligence; AI)を用い、超小型衛星群による地球規模の計測を自律化する技術を確立する。

具体的には、人工衛星の計測した「数値」(デジタル画像データ:以下、データと記す)を、地球上で起こるモノ・コトという「意味」として認識し、直面した状況への判断を行うためのAI技術を開発・実証する。さらに認識した「意味」に基づき、優先して処理すべき画像の選別や次に求められる衛星観測シーケンスの自発的な発行を可能にするシステム開発を行う。

本研究は、超小型衛星群が人間の判断能力を超える膨大なデータをもたらしつつある現状において、「効率的かつ自律的な全地球計測を可能とする地上衛星運用局(Smart Ground Station; Smart GS)」の確立を目指すものである。

これまでの研究と背景、問題点

人工衛星を用いた宇宙からの計測技術が急速に発展し、その成果を防災や農業効率化の分野に応用した事業が展開されつつある。

図1 衛星画像からの浸水被害同定例

図1は、タイの洪水直後の画像である(防災科研公開資料より)。赤丸は、浸水したと思われる建物を示す。衛星が撮影したデータを地上で受信し、迅速にデータを処理し公表する。このようなデータプロダクトは、日本でも既にJAXAと内閣府・地方自治体の間で行われており、この手法はほぼ確立されたと言える。


図2 深層学習による被災状況把握

一方、産総研では深層学習を用いて地表面の状況変化を検知・理解する手法を開発している。図2は東日本大震災前後の写真から津波により流出した家屋の検出したものである(Fujita et al., 2017)。人間が手掛かりとする「空間的な変化」という情報を深層学習により獲得し、95%の精度で被災状況の判定を行った。

また、衛星データ受信技術の革新が世界規模で進んでいる。地上データセンターを世界各地に持つアマゾンは数多くの地上アンテナ網を整備し、分単位で人工衛星のデータ受信を請け負う事業をはじめた。現代社会では、人工衛星の仕組みや運用方法を知らなくても衛星の計測した高解像度データを手に入れる事ができる。

しかし、地上のどこでも大量データが一瞬にして手に入る時代となったにもかかわらず、問題が残っている。データを解釈し問題解決のための次の一手(追調査)に踏み出す判断を人間が行っているために、人間の作業効率が律速になり、調査が後追いになりがちである(例えば、前述の解析は洪水や震災の発生を知っている人間が事後に行ったもの)。これは、データ処理を自動化しても、インターネットを高速化しても解決できない。

また増大する画像データの処理負荷の問題にも直面している。産総研による「日本上空からのデータを即時公開」事業では、受信した衛星データの即時公開という画期的な成果が得られたが、たった1枚の衛星画像に必要な画像処理を行い公開するまで1.5時間必要であり、データ処理能力の限界が見えた。このままでは計算資源のある一部の事業者のみしか、変化する需要に耐えうる衛星事業者となれない。

超小型衛星群がもたらす膨大なデータを取捨選択しながら効率的に解析し、得られた情報を即時に次の観測に活かすためには、自律的に画像を理解し運用に反映させるシステムの提案が不可欠である。先行研究のLessons learnedを生かし、Smart GSを提案する。