2020年代後半の打ち上げに向けた開発をスタートさせた彗星探査機(ESA/Comet Interceptorミッション:https://www.cometinterceptor.space/)に搭載する超小型紫外線撮像機の開発を進めている.10x10x20cmという限られた空間条件の中で,最大限のパフォーマンスを発揮させるべく,光学設計の最適化,光学素子の効率向上に向けた研究,および実際のミッションの進行に伴い生じる様々な制約条件に対する調整など,海外の研究者や様々な企業とのやりとりの現場で,最適解を導き出すことが求められている.

具体的な開発課題としては,そもそもの光学設計の最適化が挙げられる.
一般的なカセグレン式反射望遠鏡をベースとしているが(図1),彗星の科学を考えたときに,本当に最適な設計は自明ではない.これからサイエンス成果とミッション制約に照らし合わせて最適化する必要がある.

また,鏡の形状や材質(球面鏡 or 放物面鏡)も重要な開発要素である.一般的な望遠鏡のコーティングでは反射率が足りないため,特殊な誘電体コーティングを施す必要があるが,過酷な宇宙環境における劣化や,他波長の乱反射の可能性など,考慮すべき点は多い.また,紫外線光検出器も重要な開発課題である.検出効率を高く,かつ小型軽量な電気回路で実装可能な検出器の開発は容易ではない.本研究室はこれらの課題を一つずつ克服しながら,Comet Interceptorミッションに搭載する紫外線望遠鏡を開発していく.

この彗星探査ミッションの他にも,複数のNASAミッションへのプロポーザル(ミッション提案)を進めており,それに向けた光学機器の試作および性能評価を進めている.例えば,可視分光フィルタとCCDの間に生じる迷光成分の除去などは大きな課題である.

本研究室では,フィルタの試作と暗室でのビーム光量分布測定を通して,フィルタの材質(表面コーティング)とCCD面に対する角度を最適化する研究を進めている.また同時に,フィルターターレットを用いたシュウドウ部の実装も検討しており,これらを合わせて宇宙探査用望遠鏡に応用させる.また,小型観測ロケットを用いた宇宙環境の観測も計画している.

これは太陽圏界面(太陽系の端)における水素原子の衝撃波加速の科学を目的としたもので,探査機が直接到達不可能な領域への光学観測によるアプローチという意味で極めて重要である.いわゆる探査機ミッションと異なる観測ロケットならではの長所(放射線・熱耐性が不要)と短所(搭載可能な容量と重量が小さい)を理解しつつ,1~2年の短い時間スケールで開発から打ち上げまで進める計画である.

これは特に意欲に満ちた学生のパワーが必要なミッションであり,また宇宙ミッションとしては短い時間で成果創出までたどり着けると意味で取り組みやすい課題でもある.