ピックアップ過程由来でないIPTへのエネルギー供給源は長年議論されてきた。近年のモデル計算では高温電子の存在が重要だと主張している (Delemare and Bagenal, 2003)。その一方で、IPT外から動径方向内側に拡散されてきた高温イオンによってエネルギー放射が賄われると主張する研究もある (smith et al., 1988)。

IPTのエネルギー収支問題の解決への足掛かりとして、本研究ではひさき衛星で観測される突発増光現象の解析を通し、増光現象中のエネルギーの担い手の特定を試みた。

高温粒子によるIPT内へのエネルギー供給はクーロン衝突を介して行われることが知られている。また、IPTに注入された高温粒子のエネルギー緩和時間(もともとのエネルギーの1/を供給するまでの時間)は理論計算によって求まる(図1)(Barbosa et al., 1983)。この図から、数時間~数十時間程度の短時間でのエネルギー供給は電子によってのみ引き起こされることがわかる。この事実と、増光現象の緩和時間の比較を行うことによって、増光現象時のエネルギー供給を担う粒子種を特定することを試みた。

 

 

ひさき衛星が取得した観測データ(ライトカーブ)(図2左の黒点)から増光現象を見つけるために、まず周期変動成分にフィッティング(図2青線)を行った。その後、検出された増光部分に指数関数:をフィッティングして増光現象の緩和時間を求めた(図2左 赤線)。2013年12月~2016年8月までの間で増光現象は50回検出され、緩和時間は平均で3時間、最長のものでも20時間未満であった(ヒストグラムは図2右に記す)。このことから、増光現象には数十~数百eVの電子がエネルギーを供給しているとわかった。

また、イオンは電子に比べエネルギーの供給率[W]が一桁以上低いことが理論計算でわかっているため、仮に電子とともにイオンもIPTに注入されていても、増光としては観測されない。その反面、定常的なIPTの放射に寄与している可能性があると推測できる。このことを確認するために、(I)増光現象の増光分を積分して、高温電子によって供給されたエネルギーの総量を求め、(II)高温イオンによっても総量では同程度のエネルギーが供給されたと仮定して、高温イオンがどの程度IPTの定常状態の放射を賄えるかを見積もった。その結果、高温イオンでは定常状態の放射の1%すら賄えないということがわかった。

増光現象の解析を通して本研究で明らかになったことをまとめると次のようになる、①増光現象には数十~数百の電子が寄与している。②イオンは増光にも、定常的な放射にもほとんど寄与しない、と考えられる。