山崎 朝 Yamazaki, Ashita
東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻
吉岡和夫研究室 修士課程2年
Email: ayamazaki0309 at g.ecc.u-tokyo.ac.jp
居室:新領域基盤棟4E1 (柏キャンパス)
研究内容
研究テーマ
水素コロナの同位体比測定に向けた光学フィルタの開発
D/H観測の重要性
水素同位体比(D/H比)は天体の起源や進化を知る上で重要な指標となる.例えば,(水の)D/H比は太陽系の形成過程において,太陽から離れた場所で形成された天体ほど高くなることが知られている[Horner et al., 2007].Fig.1は太陽系天体のD/H比を表したグラフであり,実際に太陽系の外側で形成された天体ほど(水の)D/H比が高い傾向が見て取れる.
水素コロナ
天体の重要なパラメータであるD/H比を反映する観測対象として,水素コロナが挙げられる.水素コロナは,天体の外気圏に存在する中性水素原子が太陽光の共鳴散乱により発光する現象であり,特に水素ライマンアルファ輝線(以下,Ly-α)で顕著に発光する(Fig.2).
水素コロナの観測からは,D/H比のほかに水素大気の温度や空間分布を得ることができ,大気の生成・散逸過程の理解にも繋がる.
吸収セルフィルタ
水素コロナのD/H比や水素温度を求める手法として,飛翔体搭載用による水素コロナのLy-α観測に最適化された吸収セルフィルタが開発している.構造としては,円筒形のガラスセルの側面にLy-αを透過するMgF2窓がついており,内部にタングステン製のフィラメントが取り付けてある.
フィラメントを加熱すると内部の水素分子が原子へと熱解離し,MgF2窓を通ってセル内部に入射したLy-αは水素原子によって共鳴散乱する.そのため視線方向では吸収に相当する.水素と重水素のLy-αは波長が33 pmだけ異なるため,(重)水素ガスを封入した吸収セルは(重)水素由来のLy-αを選択的に吸収する.最終的に,フィラメントon/off時の光量差から(重)水素由来のLy-αの光量を導出できる.このように,吸収セルにより水素・重水素を独立に測定できる.
吸収セルフィルタの課題
吸収セルでは,セル内に封入する(重)水素ガスの純度が不十分であることにより,
1) 水・酸素の混入によるタングステンフィラメントの酸化
2) 重水素セルへの水素ガス混入による重水素量の測定精度の低下
といった問題が生じる.
課題への対策
1) に対しては,(重)水素ガスを選択的に透過するパラジウムフィルタによる(重)水素以外のガスの除去
2) に対しては,活性ガスを吸着するゲッター材料であるZr・Tiによる水素ガスの除去
などの対策を講じ,より安定かつ精度の高い観測を可能とする,吸収セルの作成手法の確立を目標として研究をおこなっている.
進捗と今後の方針
これまでは,パラジウムフィルタによる(重)水素ガスの選択的な透過が有効であることを定量的に示し,実際にパラジウムフィルタを用いて製作した吸収セルにより,フィラメントの耐久試験を実施してきた.
今後は,2) への対策としてゲッターの吸着効果を定量評価し,実際に製作した重水素セルの吸収プロファイル測定から,重水素セルへの水素ガス混入による影響を評価する.また,この混入を完全に防ぐことはできないため,得られたデータからD/H比を導出する際のキャリブレーションの可能性やその精度も検討する.
[2023.9]
学術雑誌に発表した論文
[査読なし]
- Yamazaki, K. Goda, T. Matsumoto, S. Teramoto, K. Yoshioka. Transmission Characteristics of an Optical Filter for UV Observations. UVSOR activity report. 2023.
- Taguchi, M. Kuwabara, T. Katsumata, M. Tateyama, K. Yoshioka, Y. Suzuki, K. Goda, K. Inoue, A. Tomioka, A. Yamazaki. Evaluation of Absorption Stability of a Hydrogen Absorption Cell. UVSOR activity report. 2022.
- Suzuki, M. Kuwabara, M. Taguchi, K. Yoshioka, T. Katsumata, M.Tateyama, K. Goda, A. Yamazaki, K. Inoue, A. Tomioka. Performance Evaluation of UV Absorption Filter onboard Spacecraft. UVSOR activity report. 2022.
学会発表
[査読なし・口頭発表]
○A. Yamazaki, K. Goda, Y. Suzuki, M. Taguchi, M. Kuwabara, K. Yoshioka. Specifications and development of Hydrogen Imager for Comet Interceptor mission. JpGU 2022. Makuhari, Japan. 2022年5月23日.
○K. Goda, A. Yamazaki, Y. Suzuki, K. Yoshioka, K. Enya, S. Sugita. Removal of stray light generated by bandpass filters in visible light optics and focusing performance of optical systems. JpGU 2022. Makuhari, Japan. 2022年5月23日.