惑星探査における紫外線観測の意義とこれまでの課題

惑星探査において「この宇宙には人類以外の生命体は存在しうるのか?」という問題は非常に重要です。この問いに迫るためには、どのような条件がそろえば生命が生存しうる環境が成立するか調査する必要があります。例えば生命にとって水は不可欠ですが、惑星表層に水を安定的に存在できる温暖な環境を保持するには二酸化炭素などの温室効果ガスが必要です。火星や金星にはかつて大量の水があったとされていますが、温室効果ガスが宇宙に流出したために、現在ではほとんど水がない惑星と化してしまったと考えられています。これらの惑星の観測によって大気の流出過程を解明できれば、生命が存在できる条件の制約につながるはずです。

大気中の水蒸気や温室効果ガスは太陽紫外線によってイオン化しますが、これらの輝線・吸収線の多くは紫外線波長域にあります。よって惑星上層大気の物理過程を調べるためには紫外線観測が非常に重要ですが、特に200 nm以下の波長領域は地球の大気を透過できないため、宇宙望遠鏡を用いた観測が必須となります。吉川・吉岡研究室が開発を主導した「ひさき(SPRINT-A)」衛星は惑星専用の紫外線宇宙望遠鏡として数多くの成果を挙げましたが、感度と空間分解能の制約により惑星大気の空間構造などに迫ることは困難でした。

次期紫外線宇宙望遠鏡“LAPYUTA”が目指す目標

Life-environmentology, Astronomy, and PlanetarY Ultraviolet Telescope Assembly(LAPYUTA)計画は先代「ひさき」衛星が残した課題に挑む次期紫外線宇宙望遠鏡計画です。搭載する主鏡は「ひさき」の3倍の60 cmとし、検出器や鏡にも新しい技術を取り入れることで、高分解能・高感度を目指します。
吉川・吉岡研究室はLAPYUTAの光学機器の検討において重要な役割を果たしています。またハッブル宇宙望遠鏡などで問題になっていた地球大気光の影響を回避するために、LAPYUTAは遠地点高度2000 kmの放射線環境が過酷な領域を通過する予定です。宇宙放射線から「身を守る」ための、LAPYUTAが晒される放射線環境のモデル計算や、必要なシールド厚みの検討なども本研究室が主導しています。

LAPYUTAの概念図(JAXAより)

【日本惑星科学会HPよりLAPYUTA計画の参考資料】
https://www.wakusei.jp/~shourai/for_all/2021/LAPYUTA__20220518.pdf